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【ネット時評】光ファイバー全戸敷設の「西興部村」に見る『FTTHの未来』(2002/03/08)

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 人口約1200人、世帯数約600戸。鉄道はなく、旭川空港まで車で約2時間。1年のうち半分は雪に覆われる山間部だ。そんな村の全戸に、光ファイバーが張り巡らされた。インターネットは完全無料。村民がパソコンを購入する場合は補助金が出る。そんな夢のような「FTTHの村」を訪問し、感じたことは…。

■一歩先を行く、西興部村のIT環境

 村の名前は、西興部(にしおこっぺ)(西興部村のホームページ)。北海道のオホーツク海沿岸から少し内陸に入った山間にある。2月25日、「オホーツクシンポジウム」に出席するため、北見から西興部村に向かった。雪がちらつく中、オホーツク海の流氷を右手に眺め、海岸線を北上。興部から内陸に入り、20キロほど行くと、そこが西興部村だ。

 村の中央には、大きな3つの建物が並ぶ。ホテル「森夢(リム)」、森の美術館「木夢(コム)」、そして、マルチメディア館「IT夢(アトム)」。どれもコンセプトのしっかりした、素晴らしい施設である。

 一方、目には見えないが、この村には、光ファイバーの全戸への敷設がほぼ完了した。政府のe-Japan戦略の基盤「FTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)」を一歩先に実現した形である。各戸に配布・設置されたラックには、VOD(ビデオ・オン・デマンド)システムがセットされ、家庭のテレビで32局もの番組を楽しめる。山間で電波が届かず、CATVを引いたものの雪で同軸ケーブルが破損したのは過去のことだ。そして、もちろん、スイッチ1つでインターネット画面に切り替わる。ITに弱い老人でも、テレビ感覚でインターネットが利用できる。

 また、独居老人宅には、在宅健康管理端末が設置されている。血圧と体温を測ると、結果が光ファイバーを通して自動的に役場に送られる。緊急時もボタン1つで、役場にいる保健婦さんの顔が表示されるので安心だ。

 一方、酪農家の牛舎には監視ロボットが設置され、光ファイバーを通して分娩牛や病畜の様子を確認する。カメラの操作はもちろん、電気の点灯もリモートだ。雪の中、数時間置きに牛舎を巡回することもなくなった。

 ここまで書くと「なぜ西興部村に?」と疑問に思われる方も多いだろう。その理由は、農林水産省の国庫補助事業「田園地域マルチメディアモデル整備事業」。西興部以外にも、全国で同様の補助を受け、光ファイバー化を推進している田園地域がいくつかある。

■このまま終われば、税金の無駄遣い?

 「西興部の子供たちは、都会よりも恵まれているかもしれない。」

 私と同様に「オホーツクシンポジウム」で西興部村を訪れた、総務省の月尾嘉男総務審議官がこう語った。確かにその通りだ。北海道の大自然の中で育ち、かつ、ITの最先端を享受できる。素晴らしい環境だ。しかし、何と残念なことに、その恩恵を受け、いつか社会に巣立っていくであろう西興部村の小学生は、村全体でわずか58人しかいない。

 この事実を知ると、多くの人は「もったいない」と感じ、事業自体を「国民の税金の無駄遣い」と批判するかもしれない。いや、正直言って、私もそういう思いはある。「西興部村でFTTHを実現しました」「子供がITに触れています」「牛の監視が楽になりました」「老人の健康管理ができるようになりました」「村の暮らしが快適になりました」これらの事実だけで、この事業が終わってしまうのであれば、そう言われても仕方がないのではないだろうか。

 西興部村の正念場は、「ここから」だ。FTTHという物理的な環境を構築し、やっとスタートラインに立ったのだ。村に課せられた使命は、「FTTHによる効果・実例」をカタチとして、全国に示すことに他ならない。1コミュニティ全体でFTTHを実現することにより、ここまで社会が変わる、ここまで未来が変わるということを証明しなくてはいけない。

 「IT化により、村の生産能力がここまでアップしました」「インターネットで生計が立てられるようになり、村の人口がこんなに増えました」「大自然とITに触れて育ったおかげで、こんなに優秀な人材が育ちました」…コミュニティーの存在意義を変えるような具体的事例を産み出してこそ、この事業の意義が出てくるのである。

 しかし、「田園地域マルチメディアモデル整備事業」は、平成13年度以降の新規採択は行っていない。それどころか、継続地区の早期完了を促している。景気の良いときにはお金をばらまき、本当に「これから」というときに、手を引こうとしているのだ。

■国は今こそFTTH先行地域を活用すべき 

 3月1日に総務省が発表した、インターネット利用者数の速報によると、FTTHサービスの利用者数が1万2000人を突破した。その導入コストの高さから、この1万2000という数字は、まだまだ都会中心だ。が、政府が「2005年までに1000万世帯に超高速ネットワークを提供」を目標に掲げている以上、これから全国へ、地方へと物理的に広がっていくことは確実である。

 しかし、今、先行して物理的環境を実現している地域で「FTTHによる効果・実例」を証明できないのであれば、将来、日本全体でも、大きな効果は期待できない。そして「全国レベルでFTTHを実現しました」という事実と自己満足だけで、終わってしまうかもしれない。それを回避するには、今こそ、国全体が、真剣に、このような地域を活用しなくてはいけない。電子公共サービスの実験、コミュニティーの変化調査、老人福祉におけるIT効果などなど、材料はたくさんあるはずだ。大自然と最先端ITが融合した美しいこの村を、「昔は、早くにIT化したんだけどねぇ…」などと語られる存在にしたくはない。

 降りしきる雪の中、そんなことを考えながら、西興部村を後にした。

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