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【ネット時評】ITは障がい者の就労機会を創り出せるのか?(2003/03/14)

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 「私の息子は、高校3年生の知的障がい児です。ワープロ検定3級は、なんとか通りました。現在の社会状況では就職が厳しいのはわかっていますが、将来パソコンを使って仕事をするにはどうすればいいかアドバイスをお願いします」。同じ市内に住む女性から、こんなメールが届いた。正直言って、このメールを前に、どう返事をすればいいか、私は途方に暮れてしまった......。

■選ばれし人しかネットで働くことができないのか?

 「世の中には、何らかの理由で企業に勤めて働き続けることができない人がたくさんいる。ネット上に会社を作れば、その人たちの埋もれている能力を生かすことができるはず」。これが私の「ITを使って働く」ことのベースにある考えだ。だから、能力のある人をいかにして選び、ITを使ってその能力をいかにして生かすか、ということばかりを考えてきた。ネットメンバー(弊社と契約してネット上で仕事をするSOHOワーカー)の選考は厳しく、社会経験が少なかったり、仕事に対する意識が甘いと、簡単には採用されない。しかし、だからこそ、「ネット」というバーチャルな場所でオフィスを運営し、責任ある仕事をこなすことができているのだ、と自負してきた。

 そんな私が、このお母さんにいったい何をアドバイスできるというのか。「答え」のないメールを返信せざるを得ない自分の無力さ、そして、言葉は悪いが「いいとこ取り」をしている自分のずるさを感じずにはいられない。

 しかし、現実問題として、「知的障がい」あるいは「身体障がい」のある人ができる仕事は限られてくる。そこに就労機会を創り出すには、行政やNPOの援助なくしては難しいのではないか。今、会社の経営者として、利益を上げることが使命である自分にできることは、残念ながらないのではないか。そう自分を納得させるしかなかった。

■ヤマト運輸元会長の障がい者就労における偉業

 そんなとき、以前読んだビジネス雑誌の記事を思い出した。今や私たちの生活に欠かせないサービス「宅急便」。これを実現させた、ヤマト運輸の元会長である小倉昌男氏のインタピュー記事だ。父から継いだ老舗の陸運会社の経営危機を打破すべく「宅急便」を発案し、何年もかけて当時の郵政省・運輸省と戦い続け、マンモス事業を創り上げた偉大なるビジネスマンだ。そんな氏が、ヤマト運輸会長を退き設立したのがヤマト福祉財団。知的障がい者や身体障がい者の支援に、私財24億円を投じた。

 そのヤマト福祉財団の事業の1つである「スワンベーカリ―」というパン製造チェーンは、障がい者の雇用、収入の確保、自立支援を推進し、実現している。小規模作業所で働く障がい者の賃金相場が月当たり約1万円という中、スワンベーカリーで働く障がい者の月給は10万円を超えるという。その秘密は、「たとえ障がいがあっても、売れるパンを作れる」しくみを確立したことにある。小倉氏は、人的ネットワークをフルに生かし、スワンベーカリーでアンデルセンという有名パン屋の冷凍パン生地を使用できるようにした。障がいを持つ従業員は、おいしいパンを作ることができる。おいしいから、パンが売れる。売れるから、利益が出る。当然の結果として、作業に見合う収入を得ることができる。自立した収益モデルの確立。これこそが、障がい者就労支援の理想の形ではないか。

■IT業界に求められる就労機会の創造とは?

 「ITは就労の機会を広げる」と多くの人が考えている。実際にネットを使って調べてみると、「ITを活用して障がい者の就労を」という支援団体がたくさん存在することがわかった。「ネットワークによる情報交換」「障がい者向けのパソコン講習会の実施」「就職先のマッチング」「メールによる相談」など、行政・NPO・地域ボランティアなどさまざまな団体が取り組んでいる。ホームページでの活動を見る限り、障がい者の就労支援におけるITは、ボランティアや支援に頼る就労の「道具」として捉えられているようだ。(何もできないくせに偉そうに言ってしまうが)「道具」の整備はもちろん大切だが、ITを単なる働く「道具」で終わらせるのではなく、新しい「職場」にすることはできないだろうか。そして、そこに「自立した収益モデル」を創り出すことができれば......。

 そんな思いをめぐらしながら、冒頭のお母さんに返事を書いた。「今は、残念ながら的確なアドバイスをすることはできません。でも、将来への道を開くきっかけを探すために、一度、お子さんと一緒にお会いして話をすることはできませんか?」

 すぐに何をどうできるわけではないが、長期的な視野で、私なりにできることを模索したい。情報収集、現状把握からの地道なスタートかもしれない。でも、IT業界の「アンデルセンのパン生地」を探し求めてみたいのだ。

 弊社のネットメンバーには、身体に障がいのある女性がいる。障がいを持った状態で、従来どおりに再就職をするのは難しかったという。通勤や出社の必要がない弊社のような「ネット上の会社」では、彼女は他のメンバーと何ら変わらず働くことができる。もちろん、報酬に差はない。ただし、その一方で、障がいがあることは考慮されない厳しい会社であるのも、事実である。

 

 

(注)

*「障がい者」の表記について
 否定的な意味をもつ「害」を使わず「障がい者」と表記する自治体が増えてきている。ノーマライゼーション社会の実現、心のバリアフリーの推進を希望し、この原稿でも「障がい者」と表記する。

*国の施策について
 平成15年度から24年度までの10年間に行うべき、障がい者施策の基本方針を定めた「障がい者基本計画」によると、企業の障がい者雇用に対する厳格な指導や、各種助成金の効果的活用の推進が掲げられている。また、在宅での仕事を希望する障がい者に対しては、インターネットを通じた訓練ソフト配信(遠隔訓練)の支援を行うこと、さらに「IT」を最大限に活用し、障がい者の就業を可能にする機器やソフトの開発と普及を推進していくことが目標とされている。

 

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