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【ネット時評】新しい技術が言葉を変える、言葉を作る!?――カードをふれてください (2)(2003/09/05)

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 非接触型ICカードの利用説明として使用されている「カードをふれてください」という表現。文法的に問題がないかどうかを調べたところ、個人的見解では「適切ではない」という結果に至った。しかし、それだけでは終わらないのが、A型の血(気になると、とことん気にする)。こんなことにこだわるぐらいなら家の掃除でもすればいいのに、と自分で突っ込みつつ、私の想像はさらに膨らむ。「カード(身体の一部?)をふれてください」という表現は、ICチップが体内に埋め込まれるユビキタス時代を先読みしたものなのではないか。「瞑想」はさらに「迷走」していく…。

■「カードをふれてください」のルーツを求めて

 「カードをふれてください」という言葉に最初に出合ったのは、私が住む北海道の北見市。市内を走るバスのカードリーダーが停留所に着くたびに、音声でそう教えてくれる。北海道北見バスに問い合わせたところ、「リーダーの仕様なので」という返事とともに、機器のメーカーを教えてくれた。

 そのバス用非接触型ICカードシステムのメーカーは、小田原機器。担当者によると、北見市より先に導入した九州の交通局と話し合って決めたという。「かざしてください」「タッチしてください」などの案から、いちばんやさしい表現である「ふれてください」を選んだらしい。「ヲ格」を採用した理由は不明。JR東日本のSuicaとは、時期が前後していたので、どちらが先かわからない。

 次にアクセスしたのは、この非接触型ICカードシステム(Felica)の技術を開発したソニー。広報担当者から「技術を提供しているだけなので、どのような表現で使うかは、関知していない」とのお返事をいただきつつ、「想像ですが」という断り付きで、次のような説明を受けた。動作としては「かざす」でいいのだが、どれくらいの距離でかざすかは、人によって曖昧だ。限りなく近づけてほしいという思いから、「ふれる」になったのではないか。ちなみに、Felicaの仕様としては、リーダーの約10cm手前まで近づければよい。

 最後にアクセスしたのは、非接触型ICカード導入の成功例として、知名度、実績、利用者の多さでダントツのJR東日本。首都圏にあるほとんどの改札機のリーダー部分には、「Suicaをふれてください」という案内が書かれている。広報の担当者は、親切にも、当初から開発に加わっていた人にコンタクトを取ってくれた。開発時の社内モニターでは「カードでふれてください」がよいという結果になった。しかし、従来からの「(改札機に)切符を入れてください」というニュアンスに合わせる形で、「ヲ格」を採用したということだった。

■言葉は「伝える生き物」

 いろいろ遠回りをしつつ、たどり着いた結論は、「私の考えすぎ」――。ユビキタス時代を先取りした表現ではないようである。ちょっと残念。

 しかし、今回の調査(迷走?)で驚いたのは、私が問い合わせた先へは、この表現についての質問が、他にほとんど無かったという事実だ。インターネットで検索してみると、数名が疑問を投げかけてはいるものの、明確な答えを出す人もなく、そのままになっている。都会に住む人は忙しいので、改札機の文字など読む暇もないのだろうという意見すらあった。

 このコラムの最初で「カードをふれてください」という言葉を読んで、そういえばちょっと変だな、と思ったあなた。ここまで読み進め、何度もこの表現に触れていると、なんとなく「それでもいいかも…」と思えてこないだろうか。実は、私もその状態に何度も陥った。しかし、実は「答え」はここにある。言葉の目的は、伝えること。その目的を達成するために、言葉は変化しながら人々になじんでいく。まさに進化する「生き物」なのだ。

 新しいIT技術が生まれ普及すれば、そこには新しい言葉や表現が生まれる。不可能だったことが可能になったり、想像もしなかったことが実現できる。そこに、従来にない言葉が生まれるのは、当然といえば当然。こうして人々が自然に受け止め使い始めた「新しい言葉」の前には、教科書の文法や過去の常識はひれ伏してしまう。「携帯、持った?」という言葉。20年前にタイムスリップして使ったら、笑われるだろう。「何言ってんの?携帯って、持っていくことでしょ?」。

■「非」接触がウリなのに、どうして触れるのか?

 この話の流れだと、「カードをふれてください」という表現は、これはこれで「良し」となるところだが、どうもすっきりしない。

 北見市内のバスカード。(まだ少ないながらも)利用者をウオッチすると、ほとんどの人が、財布から取り出して、ペタっとカードをリーダーに触れさせている。使い方の告知の問題でもあるのだが、なんともったいないことか。思わず駆け寄って「おばあちゃん、財布ごと近づけるだけでもいいんですよ」と教えたい衝動にかられる。また、先日東京の友人にこの話をしたら、「あら、透明の定期入れしかだめだと思っていた」との返事が返ってきた。

 「非接触」が一番のアピールポイントであるはずなのに、「ふれる」、「タッチ」という言葉を使用している自己矛盾は否定できない。ソニーの広報担当の余談が、あえて「ふれる」とした理由であろうと思われる。また、読み取り時間がわずか0.1秒の非接触型ICカード。処理スピードが勝負の自動改札機に記載する文言としては、もっとも簡潔、わかりやすい表現が求められたことも理解する。しかし、本当にこのまま、みんながすでに使っているから「良し」として、定着させてしまっていいのだろうか。

■ただいま増殖中。非接触型ICカード

 などと私が迷走を続けている間にも、新しい技術は私たちの生活の中にどんどん入ってきている。

 ANAのマイルでショッピングができるようになった。この電子マネーもSuicaと同じソニーのFelica仕様。小型のPC用リーダー/ライター「パソリ」では、「カードをパソリにかざすだけ」と説明されている。

 最近開業したホテルのカードキーシステムでも、非接触型ICカードが採用されていた。カードリーダーの部分には、英語で「Card Here」と一言。うーん。さすがに高齢者も利用するバスや改札機で英語は使えないが、あえて動詞を使わず「カードをここに」という表現ですます、という手もあったのかもしれない。

 そうそう、JR西日本にも、11月から非接触型ICカードの改札機が導入される。大阪出張の際にJR大阪駅の中央改札をチェックしたところ、試験導入段階の改札機を見つけた。リーダー部分(JR東日本では「Suicaをふれてください」と書いてあるところ)には、「ICOCA」とだけしか書かれていない。本運用時にどうなるか興味深いところである。

 ちなみに、このシステム、「Suica(スイカ)」に対して、「ICOCA(イコカ)」とネーミングされた。関西出身の私としては、このノリは大好きだ。しかし、リーダー部分の案内表記に関しては、

 ほな、東にならえで「イコカをふれてください」でいこか。

というノリは、ちょっと遠慮したい気分である。

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